PMFコンサルティング取締役であり、ビズデブ(Business Development)の第一線にいる南風盛一郎にインタビューしてノウハウを学ぶこの企画。
今回は、なぜ企業内の人間だけでは状況を一変させるアイデアが出にくいのか?について、自身の体験事例なども踏まえ話を聞いていきたいと思います。
目次
状況を変える新規施策を生み出した事例を教えてください
新規事業の提案と新しい施策のアプローチは非常に似ています。
例として、タスク管理ツール「Jooto」を提供する株式会社PR TIMES様での、売上や単価アップのための施策取り組みについて、話していきたいと思います。
その中でも、特に売上に貢献したという意味で、2つの事例があります。
- 導入支援プログラムを立て付け、ショットで数十万円の売上が作れるプランの創出
- Jootoを利用する法人のお客様をエンタープライズプランに移行
もちろんこれら以外にも、CSにおけるユーザー会などの企画の建て付けなど、部門を超えた全体最適の支援を行っています。
【事例1】Jootoの導入支援プログラム策定
導入支援プログラムの発想は、JootoのCS担当と話をしている時に閃きました。
導入後の稼働率や企業の活用状況を見て、オンボーディング(社内定着)のサポートはJootoのお客様にとって価値と感じて頂けそうだと思いました。
企業側目線でいうと、価格も問題がないと考えました。例えばオンボーディングの支援費用を30万円として、単価を上げることを目的と考えた時、ツールで30万円は高いと思われがちですが、人が動くことに対する30万円という金額は決して高いとは言えません。
普段から人件費としてお客様の中で「開いているお財布」だからです。
もちろん金額に伴った価値をそのサービスにつけていくということは言うまでもありませんが、SaaSのビジネスでは、ツールの値段を上げるのではなく、役務を発生させて人が動くこと(人工)のお財布を取りに行き、単価を上げるというのは一つの必勝パターンかと思います。
実際にこの施策をやったことで、Jooto側の単価が上がり、顧客のアクティブレートも上がりツールが活用されるという、一石二鳥の状況を作ることができました。
このアイデアのトリガーはCS担当との会話でしたが、最終的にはロジックから導き出されています。
<発想に至る具体的な流れ>
① アクティブレートの状況確認→現状と問題の把握
② 解約した企業に理由をヒアリング→根拠の確認と課題の発見
③ 対策案の打ち出し
上記のような流れを全くのゼロから立て付けていき、ロジックでアイデアを固めてJootoの事業責任者にプレゼンをしました。その過程の作業は、アイデアを練るというよりも、現場に散らばる様々なファクトを集める作業でした。
そして、最後は集めたファクトがパズルのように組み合わさり、それぞれの点が繋がることで強固な一本の線になりました。これらのファクトは社内にもともとあったアンケートやデータからの収集であり、「顧客の文脈にあったもの」であったため、社内の反応も「よし、やりましょう!」となるまでに時間はかかりませんでした。
エビデンスが顧客の文脈にあったものであると、プロジェクトもスムーズに進みますね。
今は営業チームの皆様が必死で頑張ってくれていて、単価としても、売上としても成果がでており、決算資料などのパブリックな資料でも取り上げられています。
何より、このアプローチをしたお客様は間違いなくアクティブ率が向上しているため、「顧客のお客様に価値を発揮している」という点が嬉しいですね。
なぜ社内だけではこうしたアイデアが生まれないのか?
一つの要因では語れないとは思いますが、事業マネージャー目線で物事をみていないからということを挙げます。
要するに、「プランが決まっているから、これをたくさん売るんだ」という目線がプレーヤーです。
ただし、これは仕方のないことですし、悪いことではありません。そうでないと困る部分もあります。一長一短かと思います。
とはいえ、与えられたモノをたくさん売ることに目線が行くと、「状況を変える(単価を上げる)ために導入支援プランを作ろう」みたいな発想は生まれにくくなるとは思います。
自分にそういうことを自由に発想する権限がないと思ってしまっている人もいるでしょう。
仕事は組織全体で成功させなければいけないですが、個人レベルでは事業成功にコミットしていないので、その視座が育たず、結果的に発想が生まれないという状態です。
大企業や完全に組織化された中にいることで、仕事への視野が狭まってしまっているため、柔軟なアイデアが生まれなくなっています。
ただ、繰り返しますが、これは組織を考えた時に仕方のないことで、その人や組織が責められることではもちろんありません。
例えば単価が足りないとなった時に、どうすればそれを解消できるか広い視野で自由な発想できるかと考えると、確こうした事業全体を俯瞰するような視座は、外部の専門家や役員、事業責任者などを歴任した人間でないと難しいのかもしれません。
いずれにせよ、こうしたアイデアは社内外の様々なファクトのもとに生まれる可能性が高まります。例えば本件ならばツールのアクティブ率、解約理由などです。
そうしたユーザーのデータは組織として最低限把握しておいた方が良い情報ですが、実は大企業でもそのファクトが集まっていないところが多く、そのような場合は裏付けなく仮説のまま施策が進行するので、PDCAが完成するまで時間がよりかかるでしょう。
アイデアを生み出す下地の作り方
3Cで考えるとよく分かります。顧客(カスタマー)、自社(カンパニー)、競合(コンペティター)の情報を集めていないと、アイデアの下地ができません。
- 顧客の情報は事前の定量・定性調査や、自社のCSやアンケート、商談の機会に得られます
- 自社の情報は自社のデータベースなど
- 競合の情報も調べたり、顧客としてそのサービスを受けてみるなど
これらが揃って初めて、アイデアは生まれます。なので、アイデアを出すためにはまず3Cの情報、ファクトを取りに行く事が必要不可欠です。
【事例2】Jootoにおける法人のエンタープライズ(有料)プラン化
4人まで無料で使えるスタンダードプランとエンタープライズプランとの明確な差別化を上手く訴求できておらず、エンタープライズプランへの流入が阻害されていた事案です。
エンタープライズプランのユーザーを増やすために、スタンダードプランの内容を予告なく変更するなどもちろんできるわけもありません。
シングルサインオンやIP制限などのエンタープライズプランの機能は中小企業にはオーバースペックである事が多く、営業メンバーも「スタンダードで良いのでは」というマインドでした。
そこで考えたのが、「足し算じゃなくて引き算」です。
エンタープライズプランをリッチなものとして見せるのではなく、スタンダードプランだとこれができませんよ」の発想です。
そして目をつけたのは、請求書払いの仕組みでした。
記載のなかった請求書払いの対象を、エンタープライズプランのみのサービスとしました。
最後に営業のマインドセットです。
エンタープライズプランの価値を、丁寧に言語化して、営業トークを創り上げて、「企業のお客様はエンタ-プライズプランをおすすめする」ことを型化しました。
特別な機能追加を行ったわけではありません。
が、結果として全法人のお客様をエンタープライズプランに誘導できる仕組みが出来上がり、成果も上げることができました。
限られたアセットの中で、最高の結果を出しうるということを顧客の皆様にご期待頂きたいですね。
マーケットに合わない事業をゼロにする
マーケティングとセールスの壁を取り払う
日本初、顧客のPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を行う会社。
PMFコンサルティングで市場にマッチした新記事業を立ち上げる。
このアイデアが生まれた重要ポイントは?
動かせるものと動かせないものの理解です。
当時、Jooto内の請求書払いについては、お客様に対応するかどうかを議論している状態でした。つまり状態を動かすことが可能でした。
一方、お客様側では、自社の支払いフローを担当者の一存で変えることは到底できないでしょう。
つまり、「動かせないもの」になります。
こちらが動かせて、相手が動かせないポイントを見つけることが攻略の糸口であることは本件に限った話ではありません。
1、法人のお客様は必ずエンタープライズプランでご案内をする
「法人の方は皆さん、エンタープライズプランでお願いをしております」
2、請求書払いをエンタープライズプランからのみ可能にする
「請求書払いはエンタープライズプランからのみ対応しております」
「看板の立て方」だけで大きく戦況を変えた事例と言えます。
先述の通り、大企業の担当者の方は自社の支払い方法やフローなど、仕組みを変えることにわざわざトライしないでしょうから、「じゃあそれで上司に話しますね」となります。金額の差は大きな要因にはならないという確信がありました。
この施策、最初はJootoチーム内でもやや半信半疑で受け入れられましたが、いざ実際に営業に出ると全く問題がなかったことに気付き、今ではスムーズに機能するようになっています。
「お客様に寄り添うマインド」が素晴らしいのがJootoチームでした。そこにビジネスマインドをインストールするのが当社の役割でした。
大切なことは、会社の動かせるアセットを理解し、また、クライアントの動かせない力学を把握することです。その意味でもやはり、3Cの視点は非常に重要です。
新規事業を立ち上げた事例を教えてください
とあるWEB制作会社の事案です。制作事業から、ビズデブ(Business Development)事業、SEO事業など複数の事業を立ち上げ、展開しています。どのように事業転換に思い至り、実行していったか、その具体的なプロセスをお話ししたいと思います。
ビズデブ(Business Development)事業への転換
制作事業の中で、顧客がお客様から依頼された制作物を作成していると、お客様のプロダクトがいわゆる「イケてない」、その値付けじゃ売れないということに4P、3Cの視点などから気付き、「イケてない事業の制作物」ということで、社内のモチベーションも下がっていることに気づきました。
もちろん、制作会社はお客様の作りたいものを作るのが商売ですので、そこに口を挟む権限はありません。
しかし、例えばサイト制作ならば、作ったHPに反響がないと制作会社に不満が募るのがお客様というものです。
「言われた通りに作ったら、なんだかよくわからない訴求の制作物ができあがり、反響も上がらないなかで責任の所在もわからない」
そんなもやもやの中、次第に「お客様のHPはアウトプットにすぎない。WEBサイトはその会社の思考や4Pが結晶化したものだからこそ、その結晶は素材が良くないとダメだ」と思いはじめたのです。
実際、制作物は作ると顧客接点がなくなるため、サイト制作の場合に少額のサーバー代が走るだけであり、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)としては良くありません。解約率は低いものの、売上として大きなインパクトになりません。
そこでビズデブの会社にコンセプトチェンジすれば、お客様とずっと伴走ができる。あれもこれもと派生したビジネスがたくさん生まれます。
顧客接点を最大化するという意味でも、ビズデブは良いと気付きました。事業を推進する中で、アップセル、クロスセルと良い事ばかりとなりました。
現在進行中の案件でも、当初は月1回の壁打ちで20万だったものが、現在はサイト制作、保守管理、広告運用、SEOと様々な分野を任され、月170万に成長しています。
もちろん、価値の側面でも、面でお客様の負にソリューションを提供できるのがビズデブの強みです。
お客様のアウトプットをもっと良くしたい想いが前提にあり、そこからの逆算として顧客接点を最も多く持つためには何をしたらよいかと考えた結果、“制作もできるビズデブの会社”というのが良い形でハマったのです。
制作会社メインからビズデブメインへと大きくコンセプトチェンジをしてから、お客様の単価は大きくアップしています。
更に、ビズデブであることでクライアントのプロダクトに対して発言をすることもできるようになりました。
見せ方一つで大きく事業が変わった好例といえます。
マーケットに合わない事業をゼロにする
マーケティングとセールスの壁を取り払う
日本初、顧客のPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を行う会社。
PMFコンサルティングで市場にマッチした新記事業を立ち上げる。
3Cの視点でアイデアの良し悪しを見抜く
結局、行けるのか行けないのかの判断、アイデアの質の良し悪しの判断は3Cがないと判断がつかず、「こういうアイデアいいと思わない!?」に回答ができません。
- 自社にこんなアセットがあり、こんなことできます
- 他社はこんなことしています、ただ価格こんなで正直微妙です
- ユーザーはこういうこと思っていて、こんなサービスがないことに不満です
この3つが分かれば、良し悪しの回答ができますし、発展的なアイデアも生まれます。簡単なように見えますが、3Cの情報を地道に収集して理解している人は多くありません。
私の場合、Jootoでは事前に業界内のあらゆるタスク管理ツールを把握することに努めようと、全てのツールを一定期間試用しました。
そこからポジショニングマップを作成して理解を落とし込みました。実はその時のポジショニングマップは、現在Jootoチームの全ての営業が活用するツールになっています。
このポジショニングマップがあることで「簡単シンプルなツールであるが故に、ITリテラシーの高くないレガシーな会社のDXに一役買う」のような競合に対する強みを発見することにも繋がっています。
このように、3Cが分かると価値の再定義ができます。そこから思考が進みアイデアが生まれます。
繰り返しになりますが、基本は地道に3Cの情報を集めることが最も重要です。
余談ですが、私が整えた3Cに関連する資料は、そのまま営業資料として使われることが多いです。
3Cはマーケティングの言葉と思われがちですが、実は営業でも欠かせない要素なんです。
新規事業や社内新規施策を発案するために
自身で新規事業を発案したい、事業にインパクトを与えるアイデアを生み出したいと考えている方は、改めて以下の点を押さえておきましょう。
- 3C+SWOTの理解
- “動かせるもの・動かせないもの”の把握
マーケットに合わない事業をゼロにする
マーケティングとセールスの壁を取り払う
日本初、顧客のPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を行う会社。
PMFコンサルティングで市場にマッチした新記事業を立ち上げる。