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COLUMN 新規事業の相談をするならどんな準備が必要?

PMFコンサルティング 2023.02.20

PMFコンサルティング取締役であり、ビズデブ(Business Development)の第一線にいる南風盛一郎にインタビューしてノウハウを学ぶこの企画。

今回は、新規事業をしたい人がビズデブに相談する際、どのような準備をすれば良いのかについて、話を聞いていきたいと思います。

相談する側はどんな準備があると良い?

やはりリプレイスする財布と市場観が明確になっている人がいいですね。
一つ前の記事で話した遊園地の事例で話しますね。

遊園地市場というのを考える時、まずTAMとかSOMの概念があると思います。
レジャー費という大枠があり、その中に旅費や遊園地費が含まれている構図です。

つまり、レジャー費の中で、どこの遊園地に行こうかな?ディズニーかな、USJかな、富士急かなとなります。

レジャーという意味では秩父にカヤックに行こうというのも競合ですね。USJは遊園地費の上にあるレジャー費、そしてさらに上の子供との思い出費という広い財布を取りに行って成功しています。

いい例えではないかもしれませんが、世の中の親子は考えるわけです。「今度の休みの日は子供とUSJに行くか、秩父でカヤックをするか。どちらが良い思い出を作れるかな」と。そこの勝負なんですね。


※TAM(Total Addressable Market):事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模
※SOM(Serviceable Obtainable Market):事業が実際にアプローチできる顧客の市場規模

財布の話=市場の話

後楽園ゆうえんちは、狙っている財布的に同じ領域で展開する全国の遊園地が競合となるでしょう。その意味では、同じ遊園地でもディズニーは狙う財布が全く異なります。

夢の世界に浸る費なので全く独自の財布であり、遊園地という業態においては競合がほぼいません。しかし、それで思考を止めてはいけません。

夢の世界に浸る費という視点で競合を考えてみます。そうすると、例えば宝塚などのミュージカルが競合として出てくるのではないでしょうか。私の肌感ですが、客層的にも近いものが感じられます。

だからディズニーは遊園地市場だけを相手に勝負をしていないんです。勿論その市場も取りに入っていますが、全く違う市場も取りに行っています。そこが賢い点であり、入園料を値上げしても人が来る理由です。

狙う財布は段階的に取りに行く

自分の考えている新規市場は、どこのどんな人の財布を取りに行こうとしているのでしょうか。

「最終的には子どもとの思い出づくり費をとりにいきます」
「夢の世界に浸れる費を取りにいきます」

一の丸、二の丸、三の丸と考えるなら、「遊園地費→レジャー費→子供との思い出作り費」と市場がどんどん広がっているのが分かるはずです。

一の丸から三の丸まで、取りに行きたい財布が全部分かっている人は賢いと思いますし、新規事業の進め方も明確になっています。これはブランド作りも同じことが言えます。

USJとディズニーはブランディングの仕方が全く違うはずです。同じカテゴリーのようで、似て非なるものです。取りに行っている財布が違うことを理解していれば、その部分への訴求が全く違う性質のものになっていることにも気付けると思います。

つまり、最終的にどういう財布をとりにいくかというロードマップが描けているかどうかが、新規事業を考える上では一番大事になると考えています。

・新規事業の相談で抑えるべきポイント

  1. 今すぐにとりに行ける財布の定義
  2. 今後取りに行きたい財布の定義を複数

これができていたら素晴らしいと思いますし、新規事業の相談にも乗りやすいし、何より成功するだろうなと相談を受ける際には思います。

新規事業の考えは市場からスタートせよ

「これがやりたい!」と言ってもとりにいく財布、要は市場がなければ成功しません。
これを考えるための手法が以前のインタビューでも話した4Pとか3Cです。

なのでまず財布を考えて、そこから4Pや3Cの話に進んでいきましょう。なぜならば、財布Aを取り入れにいく時と、財布Bを取り入れに行く時とで競合が異なるからです。

繰り返しになりますが、ディズニーはUSJと被る部分こそあれ、本質的な価値、狙っている財布には差異があると思いますし、むしろ差異を作りに行くでしょう。(互いに)

価格の設定をどこに据えるべきか

例えば上述のように、ディズニーランドを「夢の世界観への没入」費、と考え、宝塚の観劇チケットの値段を考えた時、SS席やS席と比較すればディズニーのチケット代の方が安いよねとなります。

夢の世界に没頭したい人は、ディズニーランドの入場料に喜んでお金を支払います。
つまり、ディズニーランドはまだ値上げの余地があるということです(この財布だけを見れば)。

なぜなら、価値の本質が遊園地費じゃないからです。これが仮に遊園地費で勝負をしようとしていたなら、このような値段設定はできなかったはずです。

上記の通り、攻めるべき財布が決まって初めて競合や価格が定まってきます。

逆に言うと、攻める財布が決まってないのに4P3Cを固めていってしまうケースがありますが、「戦場はそこでいいのね?」と、リスクを感じます。

戦場選びがとても重要というわけです。

ビジネス視点で捉える天地人

戦場という話から、私が勝手に定義している商売の3項目をご紹介します。

これは時の流れです。時流、世情、時代の話。
コロナ禍なんていうのはまさに天に分類されます。

Zoomが一気に浸透したのは完全に天の影響ですよね。
SWOT分析の一部で、この「天」を定義します。

これが市場です。マーケットや財布、どこで戦うかというポジションの話。

地の利を働かせるというのは有利なマーケットを選ぶ、攻めるべき財布を見定めるということです。

これは活動です。その戦場で戦う4P、3Cなど人間が頭を使って考える手法、そして仕事に取り組む日々の行動の話です。


つまり、基本構造として活動は市場選びに負け、市場選びは商機に負けるという構図があります。
だからこそ、ビジネスでは戦略が大事なのです。


上記を前提に「新規事業の相談をするなら天地人を押さえている事が大切」となりますが、天は動かせるものではありませんよね。そういう時流です、というだけですから。

スマートフォンが人々の暮らしに不可欠になることを誰が2,000年時点で予測していたでしょうか?
だからこそ、「地」と「人」をよく考えることが大変重要です。どの市場・財布をどう戦略的に攻めるのかという事です。

ここを明確にしている人の相談は非常に好ましいですね。

余談ですが、戦うフィールドを変えることはできますし、戦略も変えることができますが、「天」を変えることはできません。

豊臣や織田ではなく、徳川の世が長く続くことになったのは、「地」や「人」が優っていたのではなく、「天」に恵まれた影響が大きいでしょう。

もちろん「地」と「人」を尽くした先に手にした天下ではありますが、最終的にはタイミングが良かったんです。

タイミングにハマった。これに勝るものはありません。「果報は寝て待て」「人事を尽くして天命を待つ」というのも動かせるものと動かせないものを捉えた、言い得て妙な諺ですね。

話が少し逸れましたが、要するに、それぞれの上位概念には敵わないということを考慮すると「地」や「人」はどちらもアイデア次第でどうにでもなりますが、「地」の方が「人」よりも影響として大きいという認識を忘れずに持ちましょう。

まずは「地」の重要性を理解しよう

ビズデブの価値というのは、「地」を動かして戦局の流れを変えることでもあります。

もし相談してくる人が「これリプレイスする財布が間違っている感じがするんですよね」と言ってきたらものすごくセンスあるなと思います。

よくあるのが「こういうことに困っている人がこれだけいます。なのでこういう商売を始めました」というパターンです。これはUSJからしたら遊園地費レベルの想定です。まだ一の丸の財布ですね。

そこから価値の本質を見極めて、二の丸、三の丸まで見えている新規事業っていうのは素晴らしいと思いますし、そういう風にあらねばならないと考えている人の相談はとても良いです。

私が新規事業の相談を受けるとなると、おそらく全部こう答えます。

「これってどこの財布取りに行く話ですか?」

これが定義できていない事業、財布の広がりが見えない事業は考え直すことを推奨します。

そしてビズデブとしては、財布を取りに行くアイデアをどう瞬時に考えつくかが重要になります。正直、誰にでもできることはではないと思います。

このアイデアの瞬間的発想力は、ビズデブとして訓練を積んだ者にしか備わりません。

商売の基本はコト売りである

以前もお話ししましたが、基本的に商売はコト売りが必須です。あらゆる事業はモノではなくコトに結び付けることが大切です。そうでないと財布が広がりません。

よく課題解決型営業という言葉を耳にしますが、財布の広がりを考えるなら当たり前のことだと思っています。私からしたら、課題解決型営業以外に何があるんだろう?と思っているくらいです。

これは要するに多くの営業手法が未だにモノ売りになっているということの裏返しだと感じています。USJの取り組みが脚光を浴びるのも、そうした事象が背景にあるのでしょう。

競合調査の重要性

新規事業においては、天地人の「地」の話をまずはしたいので、4Pや3Cの仮説をしっかり立ててある相談は良い相談だと思います。

「地」は状況によって変わることもあるので、そうなった場合の仮説は常に持っておけると良いですね。

まとめ

今回は事業を相談する際に、相談する側は何を明確にしておくと良いのかという視点で話をさせてもらいました。

「地」を起点にした市場ファーストの事業であり、リプレイスする財布を明確に、どの財布を狙っていくのか3Cや4Pの仮説を立てながらプランを構築することがまず初めにやるべきことです。

この点を押さえておくだけでも、きっと思考の質は大きく変わると思います。


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