目次
なぜ大企業に新規事業が必要なのか?
世界にインパクトを与えるという意味で、大企業の新規事業開発は大きな意義を持ちます。
豊富なリソース、蓄積されたノウハウ、これらを駆使した新規事業への取り組みは、成功した際に社会に与える影響も強く、革新的な事業もこれまで多く生み出されてきました。
特に昨今のコロナ禍においても、大企業の動きはメディアにさまざまな点でマークされていました。
一方で、ビジネスのライフサイクルが短期化し、顧客ニーズの変化も早い時代となり、これまで盤石かと思われていた大企業がベンチャーや中小企業に抜き去られてしまう、経営難に追い込まれてしまうという事象も生まれています。
現代という変化の時代だからこそ、大企業が率先垂範してイノベーションを起こす事が競争の激化する社会で生き残るための方策として有効なのです。
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大企業が新規事業に取り組む際に現れる問題点
ただし、大企業=新規事業が得意かというとそんなことはありません。
実は大企業だからこそ、中小企業やスタートアップにはない悩みを抱えている場合があります。
新規事業の足枷となってしまう懸念事項を、以下の5項目で見てみましょう。
1、既存事業視点での思考
大企業においては、収益モデルが確立された既存事業を保有しているパターンがほとんどです。
事業としても長い期間をかけて成熟しており、ある種の定型化が完了している状態となります。
しかし新規事業に対しても同じ目線で参入した場合、思わぬ形で足を掬われるリスクがあります。
特に異業種に参入する際、その業界を断片的にしか捉えられていなかったことで、前提としていたビジネスモデルが崩れてしまう、顧客ニーズを読み間違えてしまう、ということが生じます。
2、ユーザーニーズとプロダクトの乖離
大企業にはこれまで会社を支えてきた柱となる主要事業やコア技術が存在します。
そのため、多くの新規事業において自社の強みを活かしたいという思いが前に出てきます。
過去の成功体験を踏襲したい側面もあると思いますが、それが時に生み出したプロダクトと顧客ニーズに乖離を生み出す場合があります。
競合他社との差別化を狙う意味で、自社の強みを活用する判断は適切ですが、社内の自己満足的な開発はユーザーが求めていないハイスペックを生み出してしまう恐れがあるのです。
ニーズにないプロダクトを顧客は手に取りません。
頑張る方向を間違えてしまったが故に、事業が失敗するということもあります。
3、他人事な開発担当者
大企業での新規事業プロジェクトは一般的に部門横断で社員を集め、新規事業企画室や部門横断プロジェクトといった名目でチームが結成されます。
具体的にどう仕事を進めるか、イメージや実績を持つメンバーがいないことで、初期の頃はコミュニケーションコストばかりが嵩むこともあるでしょう。
また、大企業ならではの階層や政治により、現場の決裁権が少なかったり、意思決定の速度が遅かったりという点から結局指示待ちのメンバーが生まれてしまうこともあります。
ひどい場合には「自分は召集されただけ。結局誰かがやってくれるだろう」と当事者意識を欠如させてしまうメンバーが出現します。
時には現状維持を望む他部署の協力が得られず、事業推進に支障をきたすという事例もあることから、どこかプロジェクトに身が入らず他人事となっている担当者が生まれてしまう恐れがあります。
こうした他人事な開発者は、役職者や若手など立場に関係なく現れ、チームのモチベーションや業務効率を低下させます。
4、非効率的なプロトタイプ
大企業だからこそ、ブランドや看板を意識してしまうことで、効果的なプロトタイプを作ることができない場合があります。
本来であれば多少機能に難があったとしても、現段階のプロダクトを試す意味でどんどんユーザーに対してテストと検証、改善を繰り返すことがプロトタイプの役割です。
にもかかわらず、大企業として「まともに動作しないもの、欠陥があるものを世に出すなんてできない!」と、もはやプロトタイプとは呼べないレベルに作り込んだ“最高のプロトタイプ”を作ってしまうことすらあります。
本来であれば、リーン・スタートアップなどのプロトタイプ手法は「未完成をコストや時間をかけずにどんどん顧客に見せてフィードバックを獲得する」ことに意義があります。
しかし「これは世に出せないだろう」というような社内常識や陳腐なプライドから、本来の意義と離れたプロトタイプ制作に走ってしまうことがあるのです。
5、進まない仮説検証
大企業は他の中小やスタートアップ企業と比較すると、明らかに機動力の面で劣ります。
企画の承認を得るまでに何段階もの審査や稟議が必要になる点は、新規事業開発においても大企業特有の足枷となり得ます。
どれだけ綿密な仮説を立て、検証を繰り返しても、実際に事業として運用した際に新規事業が必ず成功する保証はありません。
また、市場や顧客のニーズ、世界の情勢がかつてない速さで移り変わる現代において、意思決定や合意形成に長い時間をかけ過ぎることはチャンスを逃す要因にもなります。
なぜなら、社内でじっくり検討している間に、周りの競合他社やベンチャー企業、他業界からのディスラプターに先を越されてしまう恐れがあるからです。
何が起こるか先行き不透明だからこそ、最低限の準備を整えスモールスタートし、市場のフィードバックを獲得しながら迅速な意思決定により改善を繰り返すアジャイルな進め方が新規事業には適しています。
しかし、大企業では社内のルールによりそうした機敏な動きが取れない場合もあり、結局何度も仮説検証せずに済むよう、可能な限り完璧なものをプロトタイプにしてしまおうという動きが出てしまうのも無理のない話です。
大企業が失敗した新規事業事例
大企業は新規事業に失敗しにくいかというと、そんなことはありません。
これは斬新だ!これはいけるだろう!という新規事業であっても、予期せぬ展開により撤退を余儀なくされることもあります。
以下の3つの事例を見てみましょう。
【事例1】ファーストリテイリング
2002年、ファーストリテイリングの100%子会社として食品直接販売事業のエフアール・フーズを立ち上げ、農産物など生鮮野菜の生産・販売事業「SKIP」を開始。
実店舗9拠点とオンラインでの販売をスタートした。
しかし、獲得した顧客層のズレ、度重なる欠品による不便さなどから売上の低迷、顧客離れが進行。
開始から1年半で26億円の赤字となり、2004年2月末までに全店舗閉店を決定。
取り組みから約2年での事業撤退となった。
【事例2】メルカリ
2013年創業、フリマアプリの急成長メガベンチャー。
2014年にはアメリカ、2015年からはイギリスにも進出した。
しかし、イギリスでは2016年、2017年の売り上げはゼロ。
2018年に日本円で約43万円を計上したが、同年イギリスからの撤退を決定。
約10億3900万円の営業/経常損失となった。
【事例3】セブン&アイ・ホールディングス
2019年7月1日から開始したQRコード決済サービス「7pay」。
セキュリティ対策に不備があり、リリース初日から不正利用が相次いだ。
結果、被害者808人、被害総額3861万5473円、そして記者会見における代表の知識不足露呈による企業ブランドの毀損などの損害が発生。
同年9月30日に僅か3ヶ月でサービスが廃止された。
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大企業だからこそ気をつけるべき新規事業成功へのポイント
大企業には、他の中小企業やスタートアップ企業では真似のできない圧倒的な強みをそれぞれで持っています。
事業の中核を担う強い柱、その周りを固める優秀な人材、長い歴史の中で育まれたノウハウ、どれも一朝一夕で手に入るものではありません。
しかし、この大きい母体があるからこそ、時に思わぬ見落としをしてしまうものです。
こちらでは改めて、大企業が新規事業に取り組む際に再確認したいポイントをまとめました。
市場や顧客ニーズの再定義
大企業でもスタートアップでも、ビジネスは顧客ありきです。
自社のリソースを活用する、過去の経験を活かす、とても重要です。
しかし、それが新規事業においても必ず当てはまるとは限りません。
特に新しい業界への参入の場合、これまでの理論が通用しない局面に遭遇することがあります。
自社に都合の良い解釈をしてしまったり、自社の理想を追いかけてしまい顧客を見ていなかったりすると成功確度は下がります。
まずはアイデア創出の段階から市場や顧客ニーズを意識し、ニーズファーストで検討を進めていくことが必要です。
顧客のペルソナはどうか、自社のリソースは何があるか、競合他社はどのような展開をしているか、具体的に詰めていきましょう。
そして、解消すべき社会の負を見極め、その課題の解決に自社だからこそ作れる価値を提供する。
あくまでも顧客の課題に寄り沿い、解決策としての製品やサービスを開発することが重要です。
当事者意識の醸成
新規事業は圧倒的に失敗する確率が高く、難易度も相応に高い事業です。
業務量や負荷も大きいことから、なんとなくの気持ちで務まる業務ではありません。
このプロジェクトを通して何を作り上げたいのかという「達成目標」は言うまでもなく必要です。
そしてそれ以上に、この事業開発を通して何を学び取りたいかという「学習目標」を定めることが当事者意識やモチベーションの醸成という観点では最も重要になります。
手探りで進むことも多く、能動的に動くことが求められる新規事業開発では、原動力となる圧倒的な熱意を維持する環境作りが必須なのです。
特に、大企業ではスピード感が劣る分、そこでモチベーションを削がれてしまうメンバーもいます。
そうした被害を避けるためにも、上司は部下の目標設定を丁寧に行い、人材育成に努めましょう。
トライアンドエラーの推奨
新規事業では「多産多死」の構造があります。
微細な機能改善であれば、社内機関でのトライアンドエラーで十分かもしれませんが、全く新しいサービスや製品を作るのだとしたら、プロトタイプを市場に投入して早期にPDCAを回していくことを推奨します。
試行錯誤の過程で数多くのエラーが発生すると思われますが、そこは成功までのステップだと腹を括り、どっしり構えて予算を出す姿勢が良いかもしれません。
潤沢なリソースを活用し、スタートアップでは真似のできないスケールでのアクションも大企業だからこそです。
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大企業が取り組んだ新規事業の成功事例
大企業が取り組んだ成功事例を見ると、やはりその背景には自社が保有する技術力を活かしたものが多いと感じられます。
元々持っていたノウハウを昇華させたり、他事業に転用したり、まさに新規事業の典型的成功例とも言えます。
現代の情報化社会の中で、SDGsやDXを軸にした取り組みをしたり、社会現象の背景に深く根差した課題の解決を図ったり、スケールの大きい取り組みができるところに大企業の強みを感じます。
【事例1】本田技研工業株式会社「HondaJet」
世界に誇るモビリティメーカーである本田技研工業が挑戦した小型ジェット機事業ホンダジェットは2015年から販売開始しました。
2021年の小型ジェット機納入数は37機と同クラスでは5年連続で納入機数世界最多を獲得する大成功を納めています。
この新規事業は“自由な移動の喜び”を空にまで届けたい、という想いのもと、航空機の次世代を切り開く性能と快適性への挑戦でした。
創業から30年以上を経た1986年から研究に着手、技術確立や量産準備期間を経て2018年にリリースされました。
ホンダジェットには、他社のビジネスジェット機にはない独自の先進技術が複数取り入れられるなど、自社の優位性を余すことなく発揮しています。
これまで世界のトップメーカーとして君臨してきたホンダの技術を応用することで生まれた独自性が、ホンダジェットの価値を高めたと言えるでしょう。
【事例2】ダイハツ工業株式会社「らくぴた送迎」
「らくぴた送迎」はスモールカーを中心とした事業で高い牽引力を持つダイハツが取り組む新規事業の1つです。
2015年から販売会社と一体となり、福祉介護業界と協力するチームを設置、3万カ所以上の介護事業所へ訪問してきました。
そこで得た事業者や利用者の悩みや課題をヒアリングし、2017年に通所介護事業者の送迎最適化支援システム「らくぴた送迎」開発、2018年より販売を開始。
2019年から「福祉介護領域における共同送迎の実現に向けた取り組み」を始め、地域課題の解決にも精力的に取り組んでいます。
2020年にはMaaS & Innovative Business Award(MaaSアワード2020)において最高賞の「大賞」を受賞しました。
自社のスケールメリットやモビリティのノウハウを活かし、介護事業者向けの送迎支援システムというニッチな市場にターゲットを絞り込んだことが成功の要因と言えます。
https://www.daihatsu.co.jp/rakupita/#info
【事例3】日立グループ「Lumada」
“DX(デジタルトランスフォーメーション)でよりよい社会へ”と銘打たれ、脱炭素・循環型のグリーンな世界を目指すための協創エコシステムとしてLumadaは2016年にリリースされました。
Lumadaは日立のデジタルソリューション、そしてそれらをスピーディーに提供するためのアーキテクチャーとテクノロジーを凝縮したIoTプラットフォームサービスであり、価値創出の連鎖を加速させることで継続的なイノベーションを実現できる環境を作り上げています。
そして現在は世界展開をしており、経済産業省と東京証券取引所が認定するデジタル活用の優れた実践企業「DXグランプリ2021」にも選出されています。
https://www.hitachi.co.jp/products/it/lumada/about/index.html
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